十一月雑詠

末枯や紙幣に指がねばりつく

荒星や地上に届く飛機の音

小春日を透明にする窓がらす

神をらず蹠に痼る血は鉄に

南天の実と遠州の陶房と

刀身へ女ら冬の貌映す

城下町へ蜜柑の実る木を載せて

 ■ 牟礼鯨

兼題「葉」

 ■

木の葉散るネパールの紙棚奥に
          牟礼鯨

  ■

葉脈に秋の日暮れを見せてやる
           泉由良

十月雑詠

風力発電機一基回らず渡り鳥

水始涸よジャム瓶底に闇

亀虫や階下の人は無口なり

ジェイコブの梯子まきとる秋の潮

山霧を鬻ぐよ無人販売所

次郎柿や鉱山雨に濡れてゐて

秋霖や有楽街のあぶれ猫

秋雨の底ひに藍のマッチ箱

  ■ 牟礼鯨

十月兼題「かそう」

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冷まじや鬼門に墓地の家相とて
          牟礼鯨

  ■

秋晴れのひかりに透けてゆく火葬
          泉由良

九月雑詠

  ■ 牟礼鯨

グラノーラにヨーグルトがけ夜業終ふ

あたらしいベッド並ぶる早稲田かな

月光や川の向かふに鉄工所

わらび餅売る歌焼肉屋の裏に

眠すぎて二百十日を過ぎにけり

寿司屋もうやめたのかしら秋の雲

秋夕焼や話は醤油麹から

木の実落つ美術館から抜けられず

荻の近親へ萩の遠戚へ粉糠雨

ウェディングドレスを載せて颱風へ

吊花の実や建築家亡き宅に

乳酸菌飲料売りに竜田姫

からあげのはみ出してゐる爽やかさ

旧姓と靴を捨てます秋の空

月の香は濃し彼岸花白ければ

神鈴は秋声となり事任

白い花が好きな人ゐた金木犀

川蟹を茹でる時間は虫の声

秋晴へ諸手をあぐる衆議院

水澄みて星野みなみの言ふとほり

八月雑詠

川蟹や煉獄の火を掲げをり

夏深し鯨ヶ丘に塩の道

漬物の青は秋風へと移る

地下街のがらくた尖る天の川

八月の雨に雨つぐ黒電話

終戦の日や指の腹はぼろぼろ

忘却にへこむ額よ秋涼し

歯並びは鬼ゆづりなり蓼の花

赤のまま取集時刻は消えてゐる

不知火やβ世界線のたわし

左手は布巾にくるむ芙蓉かな

暦師の版木色褪す水澄みて

空赤き北極の絵よ秋の暮

忘れ井戸悲しき星月夜を吐く

密告の魚を洗ふ稲光

  ■ 牟礼鯨