十月題詠「仮装」

タバスコで これでもかと仮装した イタリアン 案外食べられた 学生の頃

そばうどん だし気(け)のものは ことごとく 一味で仮装 これまた美味

せんべいは 塩もいいけど しょうゆ味 仮装で変わる 腹持ちの時間

カレーなら ナンに装うか ライスにするか どちらの仮装も 捨てがたし

ニンニクは 家族みんなが 避けるから 私しかできない 美味なる仮装

       ■ 偲川遙

九月題詠「月」

秋風や 友に誘われ 出てみれば 馬も眠りし 満月の夜

そぞろ歩く 道の暗きは 比類なく ただ光るのは 天頂の月

目を移し ふと我らがあとを 見てみれば ほの白く浮かぶ 月影ぞある

月影と 友と四人で 行く道は 虫の声 片時も絶えず

月見れば 思い起こすは 青き日々 あの月影の 行方やいずこ

       ■ 偲川遥

「砂」題詠

風緩む館山の春の砂浜で 友とふたりただ波を聴く

思い立ち砂を握りて手を開く 落つる砂の音は波に消されて

手の砂を払いしあとに振り向けば ただ名も知らぬ海草のみある

ふと見れば砂中に半ば埋もれたる 巻き貝の殻そっと手に取る

引き潮に取り残されたる貝の殻 滴る砂の虚しきことかな

       ■ 偲川遙